「ヘタの方がちょっと緑がかっているのを買ってきてね」
母はそう言うと、痛そうに寝返りを打つ。
「うん、わかった」
私はそう言い残し実家を出た。
母が食べたいのは、ネギトロ丼と熟し切ってないトマト。
チェーン店の寿司屋ではネギトロ丼を扱ってない、とのことで、別の寿司屋に行ってネギトロ丼を注文。
その後新鮮な野菜が売っているスーパーへ寄り、トマトを探した。
母が食べたいトマトは・・・あれ?ないなぁ。
中の陳列棚に無かったので、外の八百屋を覗きやっと見つけた。
実家に戻ってトマトを見せると、母は美味しそうだと喜び微笑んだ。
サクサクとトマトを切っていると、不意に涙がにじむ。
「美味しそうだから、お前も持っていきな」
「うん」
味噌汁を作り、夕餉の支度を調え、玄関を出ようとしたとき母の声が聞こえた。
「明日は行けなくてごめんね。高崎、頑張れよ」
声に出来ず、ただ頷いて実家を出た・・・・。
明日は思いが届くよう・・・・・精一杯踊ろう。